株式会社三協リール 代表取締役 三木 健太郎 様
白鳥製薬株式会社 代表取締役社長 白鳥 悟嗣 様
聞き手:グラムコ株式会社 代表取締役社長 山田敦郎
山田
そもそも、三協リールさんを我々がお手伝いさせていただいたことをきっかけに、三木さんから若手経営者同士で交流のあった白鳥さんをご紹介いただいたというご縁ですが、本日はお二人ご一緒にお話を伺いたいと思います。まずは、それぞれ老舗であられると思いますが、創業年と経営を担う際の心境をお聞かせください。
白鳥
1916年創業なので、2016年が100周年でした。父が5代目の社長ですが、世代では父が3世代目、私が4世代目となります。私はポジティブすぎるのか、プレッシャーというのは感じることはないですね。結果は出ると信じて、やるべきことを努力しながらやるだけですね。
山田
三協リールさんの創業はいつですか。
三木
1968年の6月で、いまは50期目になります。世代では、僕が2代目になります。父から2003年の6月に引き継ぎました。当時29歳でしたが、父も29歳の時に三協リールを始めたのです。そのころ僕はまだ駆け出しも駆け出しの時期で、中国での立ち上げに携わったぐらいで業界のことも分からない状態でしたが、「とりあえずやってみろ」という形で始めたんですよね。
山田
ブランディング導入のきっかけについてお伺いします。三木さん、いかがですか。
三木
僕が継ぐ時に、どうせやるなら世界のトップメーカーになってやると決めていました。小さくてニッチな産業であっても、自分が一番得意としていることで一番になれなかったら、きっと他でやってもうまくいかないだろうと。それには、僕が前に勤めていたアメリカのインディアナ州にあったリールクラフトという会社で、当時の社長に言われた「お前が知っているのは日本とアメリカだけだ。世界には190カ国もあるんだぞ」という言葉が大きく影響しています。しかし、実際に継いでみると、世界なんてとんでもない、という現実があって、いくら僕が世界トップメーカーを目指して頑張りましょうと言っても、「拠りどころ」になるものがなかったということに気が付きました。その時、たまたまセミナーで山田社長の講演を聞く機会があって、講演後にお話ししたところ、「ブランディングは中小企業こそやるべきだ」と言われたので興味を持ちました。それまで、ブランディングというのは、例えばルイ・ヴィトンとかそういうイメージでしたし、しかも大企業がやるものだと思っていました。
山田
なるほど。そのアメリカの会社の社長さんからは、情熱の一番根っこの部分をいただいた感じなんですね。そういうものがあってこそ世界を目指す。けれど、その足がかりというか、手がかりとして、やはりブランドがないといけないと思われて、ご相談くださったんですよね。では、続いて白鳥さんに伺います。いわゆるBtoBの原薬メーカーということで、あまり社会的には露出しないお立場から、BtoCの健康食品で勝負をかけようとお考えになって、ブランドに思い至られたのだと思いますが、実際のきっかけはどのようなところにあったのでしょうか。
白鳥
はい。当社は、売り上げの9割ぐらいが原薬・医薬品関係で、1割ぐらいが健康食品関係。その健康食品もOEM、受託が中心なので、いわゆるBtoCの売り上げと言ったら1%くらいしかないんですね。そのような状況で、リソースもあまり割かずにやってきていましたが、今後の健康食品市場には伸びしろを感じていて、そこを伸ばすことでグループ全体のモチベーションアップにもつながるのではと考えました。この健康食品ビジネスをBtoCを通じて広げていくことで、白鳥製薬グループ全体の力を上げていきたいと考えていたんですね。
山田
ブランド・レバレッジを利かせるには、まず入り口はBtoCからというわけですね。
白鳥
もともと、オンリーワンプロジェクトという名前の下に社内で立ち上げて、別のコンサルティング会社さんと進めようとしていたのですが、ちょうどその時に三木さんからグラムコさんをご紹介いただいて。ご提案の通り、各組織からさまざまな社員を集めて、プロジェクトチームを発足しました。そこから、どういう思いで医薬を作っているか、そしてそれをどのように健康食品につなげていくのか、そういった仕組みを一緒に考えていただきましたね。
山田
そうでした。実際にかなりの回数のセッションをやりましたね。どうですか、社内的に何か効果はありましたか。
白鳥
健康食品の売り上げ自体は、率直に言って満足できるとは言えず、結果はまだこれからです。ただ、いろいろな芽が出てきていまして、可能性はあると思っています。このプロジェクトをやった狙いの一つに社内のコミュニケーションを良くする、というのもあったのですが、部署横断的な取り組みのおかげか、幸いにして医薬品部門の売り上げが伸びていることにもつながっていると思います。それは、このオンリーワンプロジェクトが生んだ、会社をまとめるという副次的な効果だと思っています。
山田
ありがとうございます。三木さんのほうはいかがですか。
三木
ブランディングを始めた2004年当時、会長をはじめ役員の方々はブランディングと言うと、何だロゴかというイメージだったと思います。けれど実際は、ロゴの話は一番最後で、みんなの会社に対する想いや、経営陣の想いとか、従業員とトップ層との乖離なども含めて、すごく知ることができたというのがとても印象に残っています。そこを埋めるためにどうしようかというところからスタートしました。その時に、チームの中では世界のトップブランドをつくっていくんだという思いは皆にありながら、正直、最初は社内でブランディングをやっていくことを浸透させるのはすごく大変だったという印象がありました。プロジェクトが始まってから1年半ぐらいかかったと思いますが、過程を通じて大事なものがだんだん浮かび上がってくるところが見えてきて、社内の理解も進んだように思います。例えば、僕たちがブランドで約束する、先進性、洗練性、信頼性というのは、開発において「このデザインで大丈夫?」だったり、「今度、グッドデザインにトライしてみよう」など、考えが少しずつ変化したという実感がありますね。
山田
なるほど。その他には、値引きをあまり要求されなくなったと伺ったように思いますが、いかがでしたか。
三木
営業面では、TRIENSというコーポレートブランドをつくって、そのブランディングをやる過程において、当初シェアが4割くらいだったところから、国内トップまで伸びたというのが大きいかもしれません。その結果、値引きなどの話題になりにくくなったのかもしれません。それと、ブランディングを通じて営業マンの意識が変わったこともあると思います。
山田
経営とブランディングはすごく近いところにあると思うのですが、経営にあたって重視することをそれぞれお伺いできますか。
三木
おっしゃるように僕もブランディングは経営と一緒だと思っているんですね。ブランディングをやる前は、このブランドは何を約束して、お客さんに提供して、僕たちは何を誇りに思っているかという点が多分欠けていたのかなと考えていて。ブランディングをやったことで、そういうことがだんだんと浸透してきました。世界のトップメーカーと言った時に、いまでは自然に皆が受け入れている。例えば、先日2年に一度国内で開催される展示会があったのですが、僕は何もかかわっていなくとも、自然にTRIENSらしさが統一されていて、TRIENSの想いも上手に伝えてくれていて、最高の展示会になりました。そういうことがちゃんと自然にできていることで、新規のお問い合わせをいただくことができ、確実にチャンスにつながったと思います。いま僕の課題の一つに、TRIENSの使命や目標を社内にどう浸透させようかというのがありますが、それもブランディングとつながっているというふうに思います。
山田
よくわかりました。ありがとうございます。白鳥さんはいかがでしょうか。
白鳥
そうですね、まず私が経営に臨む姿勢と、さらにブランディングを踏まえて今後にどう活かしていくかというお話をさせていただきたいと思います。経営の姿勢としては3つありまして、変革、受容、邁進、この3つが大事です。会社が100年続く中で、精神的なものは文化として踏襲しつつ、打ち手はきちっと変えてきている。カフェインもお茶の葉っぱやコーヒー豆の抽出から始まって、天然だけでなく戦後は合成カフェインを扱うようになったように、変わることは非常に大事です。そして変わるためには受容の精神が必要になってくる。お互いを否定し合うのではなく、考えにある背景を理解し合う。この受容の精神を徹底した上で結論を導き出せば、執行において邁進していくことができるのではないかと。実行力を高める上で大事なのは事前の議論だし、決定した後の粘り強さ、しつこさ、そこが大事かなと思っているんです。否定をせずに議論を尽くした上で、ポジティブに伝えていく。そういったことが邁進につながっていくのかなと思っています。
山田
なるほど。その上で、どうブランディングに活かすかという2つ目の点はいかがですか。
白鳥
はい。ブランディングの議論をきっかけに、BtoBのほうは適切に対価を頂くという方向に持っていき、BtoCのほうは適切に投資を、広告宣伝を打てるように逆に原価を改善していく、という方向に持っていこうとしています。BtoBの場合は、いいものを作るとどうしても単価が高くなってしまう。これをいいものだから売れると考えるのはメーカーの驕りで、結局長く売れなければ存続しなくなってしまいますから、適正価格に持っていかないといけないと、いま議論を深めているところです。
山田
なるほど、BtoCが一つのきっかけになって、BtoBが改善されるというのもいいお話ですね。では続いて、中堅企業や長い歴史を持つ老舗の企業の方に対して、何かアドバイスを一言いただけますか。
白鳥
僭越で言いにくいところですが、自戒を込めて思うのは、先人に対する感謝を忘れてはいけないということですね。変革というのも、決して前任否定ではなく、環境の変化に応じて、先人への感謝の気持ちを持ちつつ、前向きに変えていくことだと思います。完全にできているかどうかは別ですが、それを意識してやっていくようにしていますね。
三木
若輩者としては非常に答えにくい質問ですね。いま、うちでも取り組んでいるところですが、もう人でしか差別化はできないと考えています。その人が本気で動くためには、ブランディングも含めた経営理念とか、創業の精神の浸透が大事なんですが、やっぱり一人ひとりが会社に惚れ込む、このブランドを好きになる、これを伝えたいというふうに内から出てくる、そういう環境づくりが大事だと思っています。中堅企業で長い歴史を持つ企業であれば、自分たちは知らない、お客さんからすごく支持されている良いところがあるはずなんです。そういうところをもう一回、ブランディングを通じて社員で見つめ直して、一人ひとりがもっとうちの会社すごいよ、と思えるようになれば、世界でも通用するようになっていくと思いますね。
山田
ありがとうございます。最後に、グラムコは日本のブランドを強くするというテーマを掲げて取り組んでおりますが、我々への期待やご要望があればお願いいたします。
白鳥
自分の会社に対して誇り、プライドをきちっと持つということが大事だと思っていまして。ブランディングを通じて、信念や誇りを持った人を増やしていくことが、日本の底力を上げていくことにつながると信じていますし、そのあたりをぜひ頑張っていただきたいです。
山田
本当にそれは大事だと思います。ご期待に応えられるように、もっともっと頑張らないといけないですね。ありがとうございます。三木さんはいかがでしょうか。
三木
僕の中ではグラムコさんは日本のブランディングファームでトップだと思っていますし、そことお付き合いしていること自体に誇りもあります。これからもトップであり続けてほしいと思いますし、十何年前の僕みたいに、迷っている人たちを支えてほしいと思います。日本にはまだすごい技術を持った素敵な会社がたくさんあると思うんです。その会社の良いところを引き出して分かりやすくする、そんなことから日本全体を盛り上げていただければと思いますね。
山田
本当にどうもありがとうございます。私どもにとっても非常に励みになりました。グラムコも近年アメリカのブランディングファーム、シーゲルゲール社と提携するようになって以来、ものすごく刺激を受けています。その中で世界に通用するブランドづくりのお手伝いをしっかりやれるという自信は以前より強く持つことができました。お話を伺う中で、お二人とも、老舗の中にベンチャースピリットが宿っているような頼もしさを感じました。今後ともお付き合いを深めていければと思います。本日は本当にありがとうございました。
企業名:株式会社三協リール
所在地:〒263-0002 千葉市稲毛区山王町279-5
創 業:1968年6月
URL:http://www.triens.jp/
企業名:白鳥製薬株式会社
所在地:〒275-0024 千葉県習志野市茜浜 2-3-7
創 業:1916年5月
設 立:1948年4月
URL:http://shiratori-pharm.co.jp/