2020 年、新型コロナウイルスのパンデミックにより、世界規模で全てのブランドが不測の事態に直面した。しかし、その状況でも、 スピーディに行動し、社会に貢献し、価値を上げたブランドがある。その要因は何か。
グラムコでは、いくつかのブランドの行動と、その中核にある企業理念に着目した。仮説として言えることは、独自の存在意義(= パーパス)を掲げ、それを実現するための行動をして、公に発信するという一貫した循環を行なっているブランドが印象に残りやす いということだ。
2021 年以降、不確実な環境下でステークホルダーの企業への要求は益々強まると考えられる。そこで、パンデミック時のブランド の事例を参考に、ブランドが持続するための戦略を考える。
1 ブランドの存在意義を問われたコロナショック
1-1 記憶に残ったブランド・薄れたブランド
1-2 緊急事態にも素早く行動し、平常時より成果をあげたバドワイザー
2 行動し価値を上げるブランドは何が違うのか
2-1 価値を上げるブランドは、独自の「パーパス」を実行する
2-2 謙遜は、潜在的に費用がかかり、損害を与えるような誤解を生む
3 不確実な環境でこそ活きる存在意義「パーパス」
3-1 パーパスとは
3-2 企業組織における存在意義の遍歴
3-3 パーパスとミッションの違い
4 企業理念をパーパス型に再構築する
4-1 そのブランドにしかないパーパスを見つける
4-2 よいパーパスの条件とは、BIG・SIMPLE・TRUE
2019 年末に発見された新型コロナウイルスは、数ヶ月後には世界中に広がり、人々の活動が制限されるという前例のないことが 起こった。そこから1 年が経とうとしているが、終息にはしばらく時間がかかると多くの人々が感じていることだろう。さらには、 「ニューノーマル/ 新行動様式」と呼ばれるように、人々はこれまでとは違う行動をし、新しい幸せの形を見つけていく段階になった。
世界中の国家や組織は、パンデミックにおけるリーダーシップや行動力が問われた。世界レベルで 比較され、結果が感染者や死者という数値となって瞬時に集計されるようになった。
企業やブランドは、どうだろうか。事業の違いにかかわらず、サービスの価値、ビジネスの意義など、企業やブランドの本質を見 直すきっかけになったのではないか。グラムコでは、2020 年3 月から原則リモートワークとなっている。5 月の自粛期間中に全スタッ フにインタビューを行い、ブランド専門家としての状況を聞いた。
その中で、ひとつの気になる点として、日本企業の存在感の薄さがあがった。「日本企業は、何もしていないように感じる」「有事 の時にグローバル企業の活動と比べると弱い印象」「世界で活躍する日系企業も多いのに、なぜインパクトが弱いのか」ということだ。 もちろん、企業ブランドが自らの存在意義に立ち返った例やクライアントの例についてのコメントもあった。例えば飲料メーカーの コロナ禍の人と人とのつながりの大切さを表したCM に感動した、異業種メーカーのマスクの生産、ソーシャルディスタンスのロゴ を作成し発信するなどの企業活動もあり、それらに心を動かされたというコメントもあった。個人により見解が異なるものの、総じ て自粛期間中に行動が目立ったブランドがなかった。
そこで、7 月にリモート会議を設け、有事の企業の行動について議論を行った。その結論とは、「非常事態宣言期における日本企 業の対応では、企業姿勢とリンクした活動の発信が弱い」ということだった。例えば、複数の自動車メーカーは、コロナ患者搬送 用車両を開発し、自治体に寄付した。モノづくりの優位性を活かして医療用器具を開発した。しかし、その活動についての発信は、 控えめな印象であった。強みである事業分野で貢献しているにも関わらず、企業メッセージとしてアピールしないのは、もったいない。 海外の事例では、シンガポールの13 社がインドネシアのある島に10 万枚のマスクと、5 トンのハンドサニタイザーを寄付した。 そのうち5 社は、日本企業の現地法人だったが、日本にはほとんど伝わっていない。このようなすばらしい企業行動は無数にあっ たことだろう。しかしながら、人々の印象に残らないことは、少し残念である。
日本企業も緊急対応として当然行動をしている。しかし、それがブランド全体の姿勢と一貫しているかどうか。さらにそれが社員や 生活者に正しく伝わっているのかどうか。より生活者に価値を提供し、インパクトを残すための戦略を検討する余地がありそうだ。
米国の事例だが、事態の変化に対して素早く動いたブランドがあるので紹介したい。
米国No.1 のビールブランド「バドワイザー」。まさに外出制限下で、飲食店やイベントなどで、大勢で集まって飲食を楽しむことが 困難な状況に追い込まれてしまった。しかし、驚くことに前年と比較してブランド価値を上げることになったのだ。これは一体どう いうことか。パンデミックにより状況が刻々と変わる中でも行動し、ピンチをチャンスに変えていった。主なアクションは【表1】の通り。
これだけの事態が起きている中で、パンデミック直後、ロックダウン開始後、ロックダウン解除後と、状況の変化に応じなが ら行動している。そして、それが社会にどのような影響を与えるか、よく考えられている。さらに、行動の結果を昨年の指標 でベンチマークしており、昨年対比でSNS でのメンションが70%UP、業界への成長寄与度が3 倍以上になった。昨年は一般 的なマーケティングや活動を行って数値を取っているが、今年はそれができなくなった。しかしながら、様々な施策を行った 上で、結果として同じ指標で比較しこれだけの成果を上げている事が素晴らしい。単にブランディング、ブランドメッセージ で耳当たりの良い事やCM を発信していただけではなく、具体的な活動をした上でマーケティング的な成果を数字で示してい る。パンデミックという異例の事態にかかわらず、なんともたくましい。一体、自分たちの健康も守らなければならない状況で、 どうやってこのような行動をし、結果につなげることが可能なのだろうか。
ここまで彼らの行動と結果が明らかになっているのは理由がある。2020 年のカンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェ スティバルで、バドワイザーを運営する世界No.1 ビール企業・アンハイザー・ブッシュ社USA のCMO のであMarcondes 氏のプレゼンテーションがあったからだ。
(https://www.youtube.com/watch?v=nxHZNK3XAyo) 動画の中で、数々の行動の背景が明らかにされている。
ブランドパーパス
「We exist to bring people together?人々を集めるために、我々は存在する」
パーパスの基盤となる自社の3つの強み
(1)真に人々を理解する力
(2)アジャイルであり、常に文化や行動の変化に適応する力
(3)メッセージだけではなく、行動によって価値を届ける力
ブランドパーパス、パーパスの基盤となる自社の3 つの強みを紹介した後、さらに彼は人々が直面している状況や人々の新た な行動、新たなルーティーン等『New Reality』を理解することの重要さを強調した。
我々は、一連のプレゼンテーションを聞いて、彼らの行動が終始一貫していることに納得した。このブランドパーパスを非常 時でも実現するために、彼らは自社の強みを最大限生かして活動したのだ。レストランやイベントで、これまでのやり方が通 用しない状況に直面した時に、(1)人々を第一に考え、人々のニーズや行動等『New Reality』を理解し、(2)その変化に素早く適応し、(3)行動した。
このサイクルが、存在意義に起因し、事業ドメインを通して行われているといえる。
バドワイザーは、一例にすぎない。ただし、パンデミックのような通常業務ができない状況にもかかわらずスピーディな行動が伴う 背景には、社員がブランドのスタンスを理解して、ブランド価値に貢献できるような仕組みがあるはずだ。そこで、いくつかのブラ ンドが、このパンデミックにどのような行動をしたのか調べてみた。さらに、そのブランドがどのような大義を定義しているのか、 関連性をみた。【表2】
バドワイザーと同様に、それぞれのブランドには大義があり、コロナ禍でも、その大義に近い行動をとっているブランドが多いと言 える。そしてその行動の大小に関わらず、企業として社会にアピールしている。逆にいうと、たとえ小さな行動でもブランドの大義 に貢献し、しっかりとそれを社会に伝えることができれば、それを継続することで社会から評価される、ということが言えるのでは ないか。
冒頭の社内インタビューでも、「日本企業は謙虚すぎる」というコメントがあったが、コミュニケーション不足はデメリットし かない。発信がないことは、生活者にとっては何もしていないことと同じだからだ。しかし、日本企業に限ったことではなく、 世界中の企業が、存在意義を社会にはっきり示していないなどのコミュニケーション不足によって、機会損失をしているとい うデータがある。英国のコミュニケーション専門のZENO GROUP 社による、8 カ国18 歳以上を対象とした8,255 人の消費 者調査によると、『消費者は、企業に対しての基準を引き上げており、事業領域の内外で社会的課題解決を促進することを求め ている。彼らはブランドがより意味のある理由を持っていることを強く期待しており、世界の消費者の94%が、彼らが従事す る企業が「パーパス」を持っていることが重要であると述べている。ただし、興味深いパラドックスが発生する。ほとんどの 消費者は企業が「パーパス」を持つべきであることに同意しているが、実際に企業が「パーパス」を持っていると信じている のは37%だけだ。』
The 2020 Zeno Strength of Purpose research / 8,255 consumers across eight countries (United States, Canada, United Kingdom, France, China, India, Singapore, Malaysia) https://www.zenogroup.com/insights/2020-zeno-strength-purpose
貴社やそのブランドは、心から貢献できる「パーパス」をお持ちだろうか。そして、今回のパンデミックでもその「パーパス」を実行し、 社会にしっかり発信できているだろうか。
パーパスとは、"The essential reason"、存在意義・目的という。「なぜ私たちが在るのか」というWhyになる。これに対して、ミッショ ンは「私たちは何をするべきか」というWhat になる。『変化するニーズに即対応するには、常に原点に立ち返ることが必須になっ てきます。それによってブランドらしい価値を継続的に社会に提供することでブランドを作っていくのです。(GRAMCO HP)』 グラムコは、ブランドパーパス(存在意義)を中核概念とし、ブランドコンセプトの構築を支援してきたが、今回のパンデミックで、 企業はサービスが提供できなくなったり、顧客の価値観が変わってしまうという状況を目の当たりにした。What が急速に変わって しまったのだ。「私たちは何をするべきか」の前に、「なぜ私たちが在るのか」を問われる状況となったといえる。
企業組織とその在り方は、当然変化している。【表3】は、日本の400 年をまとめたものである。家訓によって代々の繁栄を維持 する江戸時代から、社是社訓によって国富を追求し始めた明治維新。戦後復興では、社会復興貢献型社是から、高度成長期にな ると世界視点を込めた理念となる。バブル経済の崩壊と共に、企業経営はピーター・ドラッガー氏の影響もあり、ビジョン・ミッション・ バリューの定着や、ブランドを無形資産とみなすデビッド・アーカー氏の影響により、ブランディングは大きな潮流となった。株主 価値の最大化が注目された近代を経て、地球温暖化などの社会課題はグローバルで対峙しなければならなくなった。それに伴い、 企業の社会的責任も大きくなり、社会と一体となって課題解決を行うことを期待されているのだ。企業がパートナーや生活者を巻き 込んで課題解決をしていくには、明確な存在意義が必須になっている。
現在グラムコでは、「パーパス」はブランドコンセプトにおいて最上位概念と位置付けている。これまでは「ミッション・ビジョン・ バリュー」というMVV 理念体系型であった。そのため、経営理念はこの3つの項目で考える方が親近感があるかもしれない。しかし、 変遷で示す通り、企業に社会的課題の解決が求められる現代や未来においては、企業はこれまで以上に社会に開かれた存在となり、 意思を共にする多様なパートナーとして知恵や技術を提供し合うことが欠かせない。地球規模の課題に対しては、各企業がそれぞ れの得意分野でリーダーシップを取り、他社と共創することでしか解決は困難だからだ。そのような環境によって、自分たちの存在 意義を社会的な視点から規定する「パーパス」という考え方がグローバル企業から起こり始めている。
それでは、企業理念をパーパス型に再構築する場合について、具体的にしていこう。グラムコでは、クライアントのプロジェクトメ ンバーとの密な協働ワークを行い、共に「パーパス」を構築する。このプロセスを大切にしているのは、そのブランドにしかない DNA や価値観を共有し、事業ドメインを含む、より本質的な内容であることを最優先とするからである。それが、結果的にブラン ド価値に寄与するのである。 業種を超えてパーパス構築支援をした経験をもとに、グラムコの考えを共有したい。独自のパーパスを見つけるためには、以下の 3つの源泉を重要と考えている。
強みの源泉:そのブランドにしかない歴史、文化、優位性は何か?
これはブランドアイデンティティには必須の要素であり、ブランドの出発となる。
利益の源泉:世の中のニーズは何か、どうやって稼ぐのか?
ビジネスを行う以上、会社や顧客に利益をもたらすことは、当然である。
誇りの源泉:社員の道徳心に訴えることは何か、どんな社会課題の解決に役立つのか?多くの人の共感を得られるか?
一人でも多くの人が「パーパス」にコミットして行動してくれることが、ブランドの持続にとって欠かせない要素となっているからだ。
パーパスの内容もさることながら、その表現も大きく左右する。言葉で定義する以上、メッセージが強いほど求心力が強くなるからだ。 よいパーパスであるかどうか、下記の条件も考慮したい。
BIG:人々を鼓舞すること。意欲的であること。
非現実的なことでは機能しないが、スケールは大きい方が訴求力がある。
SIMPLE:明確で誤解のないこと。信念があり迷いがないこと
グローバルに語りかけるためには、誰もが共通に理解する表現は不可欠である。
TRUE:ただちに信じられること。言葉だけではなく行動で示せること。
そのパーパスをブランドが本気でコミットしているのか、ブランドの行動で明白になる。
コロナショックをきっかけに、企業やブランドの存在意義を見直した場面もあったのではないだろうか。このような非常時にも社員 が自律的に行動し、価値を高めるブランドは、平常時から自社の「パーパス」にコミットし、その実現のために日々行動していると 考えられる。したがって、不確実な環境下における企業の必須条件として、下記の3つがあげられる。
1 そのブランドは、良い「パーパス」があるか。
2 社員は、日々「パーパス」を実行しているか。
3 そのブランドは、「パーパス」の実行を発信しているか。
この継続こそが、ブランドアイデンティティを強化し、持続的なブランドになる方法である。
また、「パーパス」型を推奨する背景として、企業は社会的責任を一層求められ、地球規模の課題解決に貢献する仲間として生活 者から期待される。存在意義を明確にすることで、ブランドアイデンティティを強化する。よい「パーパス」は、それを実現するために、 事業をどうやって行うのか、社会に対して何を行うのか、誰のために誰と共に行うのか、といった行動の原動力になる。さらに、 具体的によい「パーパス」を構築する上でのグラムコの考えを共有した。貴社やブランドのコンセプトと、ぜひ照らし合わせていた だき、持続するブランド構築の一助になればと思う。
引用元
トヨタグループ、医療現場および医療用品への支援を表明
https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/32232844.html
新型コロナウイルスに対する日産としての取り組み
https://www3.nissan.co.jp/siteinfo/action.html
グローバルHonda における
新型コロナウイルス感染防止にむけた支援活動について
https://www.honda.co.jp/philanthropy/saigai/covid-19-support/
【新型コロナウイルス対策】シンガポールでマスクや消毒液を寄贈
https://panasonic.co.jp/citizenship/activity/2020/08/post-113.html
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The 2020 Zeno Strength of Purpose research
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