Column コラム

Identify you Magazine Vol.7

「リアルな場で魅了する」~中国におけるスペースブランディング(空間設計)の実践【前編】~

COVID-19による世界的なパンデミックを経て、人と人、人とモノとの関わり方は大きく変化しました。そのような中、ブランドの体験の場である店舗空間において、変わらず大切なことは何でしょうか。スペースブランディング(空間設計)の専門チームである、グラムコ上海 北京分公司のお二人に、その意義や役割を問いかけました。2回に分けてお届けします。

スペースブランディングに興味を持つ、きっかけは?

――まずは自己紹介もかねて、お二人の入社のきっかけと、スペースブランディングに興味を持った経緯を教えてください。

江藤

私は2003年にグラムコに入社しましたが、それまではアパレルブランドの店舗の設計施工を手掛けていました。次第にアパレルに限らず、様々なブランドの構築に携わりたいと考えたのが転職のきっかけです。現在の職務としては、主に空間デザインの設計を担当しています。

廖(リョウ)

私は日本の大学を卒業してすぐ、2004年にグラムコに入社しました。元々の出身は中国ですが、父親の仕事の関係で中学1年の時に来日して以来、中学、高校、大学と日本で学んできまして、大学では土木工学を専攻していました。ランドスケープやスペースデザインの授業を通じて、次第にデザインに興味を持つようになりました。そのようなときに知ったグラムコは、中国にも展開していたので自分の希望にピッタリでした。今はプランナーとして、クライアントの窓口業務を担いながら、リサーチやコンセプト開発を主導して進めています。

――お二人は入社後、中国の著しい成長期に駐在していたことになりますが、何か印象深い出来事はありますか。

廖(リョウ)

2008年に北京オリンピックがありました。そこに向けて、現在もお付き合いのあるLenovoの旗艦店をイチから立ち上げるプロジェクトに参画したことが印象深いですね。入社してまだ何も分からなかった自分が、クライアントと深いお付き合いをさせて頂きながら、試行錯誤しつつ進めていきました。最終的には大成功に終わり、クライアントにも感謝して頂けたので大変思い出深いです。

江藤

懐かしいですね。中国がグローバル化に向け発展する中、クライアントや協力会社と共に昼夜問わず、ひたすら目標に向かって突き進んだことは今となってはいい思い出です。限られた時間の中で、どの事象にフォーカスするか、また国の違いによる思考と嗜好の異なる点と共有できる点を実感することができました。

スペースブランディングの進め方と役割

――ではまず初めに、プロジェクトをどのように進めていくのかを教えて頂けますか。

江藤

最初にリサーチを通じて与件整理を行います。既にブランドコンセプトがある場合はその理解から始めて、物販店であれば取り扱う商品やSKUと言われる最小の管理単位の理解、飲食店であれば提供するフードの種類や品数、必要席数、自ブランドと競合との取り巻く環境等を把握します。そこから、社内ヒアリングや関係者ヒアリングによって、ブランドに対する思いを徹底的に聞き出します。他には現状の自店舗・ショールームおよび競合店舗調査を行い、クライアントが持つ課題を抽出していきます。一般的なブランディングの工程と、こうしたリサーチの進め方は同じです。スペースブランディングにおいても、クリエイティブの源泉になるので非常に重要です。
これらのリサーチ結果をもとに、スペースブランディング独自のコンセプトを開発し、次にコンセプトに沿った精度の高いイメージパースを提案します。以前のイメージパースはコストと時間のかかるものでしたが、PCやアプリケーション、技術の進化により、比較的容易に精度の高いCGを制作することが可能になりました。イメージパースには、カラーや材質感、サインやグラフィック等が含まれており、完成後のイメージを共有するのに役立ちます。クライアントと完成後に齟齬が起きないようにするため、修正もイメージパースで行っていきます。

廖(リョウ)

CGだけでなく工場の中に実際に1/1の模型を作ってしまったこともあります。これは中国ならではかもしれません。多店舗展開する場合は特に、模型を実際に作ってみることで、オペレーションを含め色々と見えてくることがあります。
最終的には、完成イメージを固めたのち、基本設計および実施設計を行います。施工時には現場にてデザイン監理を行い、竣工チェックをした上でクライアントに引き渡します。

Lenovo:工場内に作成した1/1模型

――なるほど。CGの精度が高いのみならず、実際の大きさの模型を作るというのも興味深いですね。続いてスペースブランディングが果たす役割についてはどうお考えですか。

江藤

その企業や組織の“らしさ”を、空間を通じて表現することだと思っています。その“らしさ”を伝えるために、空間で使用するカラーや素材、グラフィック、さらにはムービーなどをデザインしていきます。お客さまが空間に訪れた際に、目で見て、音を聞いて、香りも含めて五感で体感する全てをイメージして、ブランドのスタイルに合わせて設計し、最適化する仕事がスペースブランディングだと思っています。

廖(リョウ)

江藤さんの意見に加えるなら、お客さまと商品との距離を近づける役割があると思っています。私たちは「ゼロ距離」とよく言うのですが、お客さまがイメージするブランドの世界観を、一度に体験できるのが店舗だと思っています。ですから、お客さまとブランドとの様々なタッチポイントがある中で、商品だけでなく店員の接客態度を含めて、ブランドに思い描くイメージを体感してもらうというのが大事ではないでしょうか。

最先端のテクノロジーを体感できるAlienware旗艦店

――では、ここから具体的な事例について伺います。これまでのプロジェクトで特に印象深かったものについて、教えて頂けますか。

廖(リョウ)

DELLコンピュータ傘下のゲーミングPCブランド、Alienware(エイリアンウェア)は2013年より10年にわたってお手伝いしているクライアントです。旗艦店と一般店、両方のスペースブランディングを手掛けています。先ほど、進め方の説明の中でリサーチについての話がありましたが、ヒアリング段階では3種類の人の話を聞くことが重要だと思っています。まずは担当者から、商品の情報や企業ブランドなど背景的なことを確認します。次に、実際に店舗に関わるスタッフ、店長から。そして、ブランドのターゲットとなるお客さまから。皆さんのお話を聞いた上で、コンセプト開発に活かします。
コンセプトに基づいてデザインを提案していきますが、特に重要なのはその後ですね。Alienwareの製品はPC1台が約40万円以上する高価なものなので、いかにお客さまの期待を上回る空間をカタチにして、実際に体験してもらうのかが重要です。

江藤

補足すると、期待以上の体験をしてもらうために、最先端のテクノロジーを感じさせるアイコンとして、人の動きに追随するロボットアームを作りました。これは、プログラマーにお願いして繰り返しテストしながら出来上がったのですが、Alienwareの世界観を感じてもらうことができたと思います。他にも、PCの中にあるマザーボードを組み合わせて北京の街並みを壁面に再現したり、Alienwareのロゴ自体を、PCのパーツを組んで作ることもしました。結果として、お客さまがそれらの象徴的な場所で、写真を撮ってSNSで発信してくださるので、話題になりました。

Alienware:(左)重慶旗艦店/(右)成都旗艦店 店内のロボットアーム

お客さまの体験価値を向上させることが、ブランドの好循環を生み出す

――ここまでブランドを体験してもらうためのデザイン意図を中心に伺いましたが、店舗が出来上がった後に、お客さまが体験できる工夫としては何かありますでしょうか。

江藤

Alienwareの旗艦店には必ず、店内に多人数で同時使用可能な対戦コーナーを用意しています。そこでは定期的に対戦イベントを行い、ゲームファンを増やす施策を行っています。例えば、Alienware三里屯旗艦店では、店内奥に大スクリーンがあるのですが、通常時は、個人用のゲーム体験筐体でゲームを楽しむ空間として活用し、イベント時にはそのスクリーンでAlienware PCを使う教室が行われる等、コミュニケーションの場として活用されています。
こうした様々な取り組みを行っているAlienwareですが、定期的にブランドや店舗に関する調査を行なっています。ブランド好感度、来客者数、店員のサービス等のアンケートやお客さまへのヒアリングなどですね。具体的な数字は挙げられないものの、多くの部分で高評価を獲得していると聞いています。もちろん、結果はスペースブランディングによるものだけではありませんが、顧客のタッチポイントとして直に商品に触れ、ブランドを感じる場として、有効に機能していると考えています。


Alienware:北京三里屯旗艦店/店内奥のイベントスペース

後編へと続きます。

プロフィール

廖芃 LIAO PENG(GRAMCO上海北京分公司 総経理)
2004年 グラムコ入社
2006年 グラムコ上海 北京分公司設立と同時に赴任

 


江藤 潤一(総監/一級建築士)
2003年 グラムコ入社
2009年 グラムコ上海 北京分公司に出向

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